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仙台高等裁判所秋田支部 昭和34年(う)80号 判決

被告人 藤本正雄

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中百二十日を本刑に算入する。

理由

弁護人の控訴趣意第一点について。

所論は要するに原審で検察官が被告人の常習性を証する証拠を何ら提出しなかつたのに原判決は虚無の証拠によつて本件常習累犯窃盗罪を認定し盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条を適用処断したのは事実の誤認且法令の適用違反であるというのであるが後段認定のごとく原判決挙示の証拠によれば原判示事実特に被告人に窃盗の常習性のある事実は優に認めることができるから原判決が虚無の証拠によつて右事実を認定した旨の所論は失当である。又検察官が原審において右常習性の立証をしていない旨の所論につき按ずるに原審第一回乃至第三回公判調書によれば成程所論のごとく検察官が特に被告人に常習性のある事実を立証趣旨として証拠の取調の請求をした旨の記載がないことが認められるのであるが、その事だけを以つて検察官が被告人の本件常習性認定の証拠を提出しなかつたと断定することはできない。何となれば証拠調の請求はその証明すべき事実即ち立証趣旨の範囲内だけで取調の請求をしたものとは解されないし、従つて又その範囲内で証拠としなければならないわけのものではなく、特に本件常習性の認定に当つては法廷に顕出された全証拠をもつてその資料に供することができるからで原判決が前記のごとく正当に右常習性を認定している以上所論は失当である。又原審第三回公判調書によれば検察官が取調を請求した被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の立証趣旨(証明すべき事実)の記載がないことが認められるが、右各供述調書はその証拠の標目自体によつて本件公訴事実の全部を立証する趣旨であることが明らかである場合に該当するから刑事訴訟規則第四十四条第十二号の規定に基いて右各供述調書について適法な証拠調をしていない旨の所論は採用できない。

同控訴趣意第二点について。

しかしながら原判決挙示の各証拠を綜合して確認できる被告人の非行歴、前科の回数、本件犯行の動機、手口、反覆累行の期間、回数、特に被告人が昭和三十三年七月札幌刑務所を出所した後半年もたたずしてさしたる理由もないのに二十日間のうちに十回の本件窃盗を敢行したこと、被告人の前科が何れも窃盗罪であること、その他諸般の事情に徴すれば、所論のごとき事情を考慮に入れても被告人に本件窃盗の常習性があること明かであるから原判決は相当であつて所論は採用できない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 松村美佐男 小田倉勝衛 石橋浩二)

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